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知財よもやま話「ノンアルコールビール訴訟」

2016年08月01日

ノンアルコールビール市場のシェアトップを争うサントリーホ

ールディングス株式会社(以下「サントリー」)と、アサヒビール

株式会社(以下「アサヒビール」)との間の特許権侵害訴訟で先月

20日に知的財産高等裁判所において和解が成立しました。

 

この訴訟は、アサヒビールが平成25年9月上旬から製造、販売

を開始したノンアルコールのビールテイスト飲料である「ドライゼ

ロ」(商品名)に対して、発明の名称を「pHを調整した低エキス

分のビールテイスト飲料」とする特許権(特許番号 第5382754号)

(以下「サントリー特許」)を所有しているサントリーが、特許権

侵害にあたるとして製造、販売の差止、廃棄を求めていたものです。

一審の東京地方裁判所(平成27年(ワ)第1025号 平成27年

10月29日判決言渡)は、サントリー特許は特許庁における特許無

効審判によって無効にされるべきものと認められるから、特許権者

であるサントリーはアサヒビールに対して権利行使できず(特許法

104条の3第1項)、それ以外の点を判断するまでもなく、サント

リーの訴えは認められないとしていました。

サントリーは、これを不服として知的財産高等裁判所に控訴し、

一方、アサヒビールは、上記の東京地方裁判所の判断を踏まえて、

平成28年4月14日付で、サントリー特許の無効を求める特許無効

審判請求(無効2016-800049)を特許庁へ提出していました。

今回の和解により、特許権侵害訴訟も、特許庁における特許無効

審判請求も取り下げられ、アサヒビールは「ドライゼロ」の製造、

販売を継続することになります。

サントリー特許は、平成23年11月22日を最初の出願日とする

特許出願に基づくもので、特許庁の審査を経て、平成25年10月

11日に特許成立していました。

一方、サントリーも、アサヒビールも、サントリー特許について

の特許性を特許庁が判断する基準日である平成23年11月22日よ

り前からノンアルコールのビールテイスト飲料を製造、販売してい

ました。

サントリーは、「サントリー オールフリー」(商品名)(以下「オ

ールフリー」)を、アサヒビールは、「アサヒ ダブルゼロ」(商品名)

(以下「ダブルゼロ」)をそれぞれ平成22年8月3日に発売開始

していました。

 

一審の東京地方裁判所における「サントリー特許は特許庁におけ

る特許無効審判によって無効にされるべきものと認められる」との

判断は、サントリー特許に係る発明(以下「サントリー発明」)は、

その特許出願の前から市場に提供されていたオールフリーあるい

は、ダブルゼロに基づいて、この技術分野の技術者、研究者などが、

サントリー特許の出願日の時点で容易に発明できたものであるか

ら、進歩性が欠如しているという認定に基づくものでした。

東京地裁では、まず、オールフリーも、ダブルゼロも、サントリ

ー特許についての特許性を特許庁が判断する基準日である平成23

年11月22日より前の平成22年8月3日から販売開始されたもの

であり、その成分等を分析することが格別困難であるとはうかがわ

れないから、オールフリーに係る発明(公然実施発明1)、ダブル

ゼロに係る発明(公然実施発明2)は日本国内において、サントリ

ー特許についての特許性を特許庁が判断する基準日である平成23

年11月22日より前に公然と実施をされて新しさを失っていた発明

(特許法29条1項2号)にあたる、と認定しました。

その上で、サントリー発明と公然実施発明1は、エキス分の総量

につき、サントリー発明が0.5重量%以上2.0重量%以下であ

るのに対し、公然実施発明1が0.39重量%である点で相違し、

その余の点で一致する、サントリー発明と公然実施発明2は、糖質

の含量につき、サントリー発明が0.5g/100ml以下である

のに対し、公然実施発明2が0.9g/100mlである点で相違

し、その余の点で一致すると、サントリー発明と公然実施発明1、

2との一致点、相違点をそれぞれ認定しました。

そして、次のように認定して、サントリー発明は公然実施発明1

に基づいて容易に想到することができたから、また、サントリー発

明は公然実施発明2に基づいて容易に想到することができたから、

サントリー特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認

められる、と判断していたのでした。

公然実施発明1に接した当業者において飲み応えが乏しいとの

問題があると認識することが明らかであり、これを改善するための

手段として、エキス分の添加という方法を採用することは容易であ

ったと認められる。そして、その添加によりエキス分の総量は当然

に増加するところ、公然実施発明1の0.39重量%を0.5重量%

以上とすることが困難であるとはうかがわれない。そうすると、相

違点に係るサントリー発明の構成は当業者であれば容易に想到し

得る事項であると解すべきである。

公然実施発明2に接した当業者においては、糖質の含量を100

ml当たり0.5g未満に減少させることに強い動機付けがあった

ことが明らかであり、また、糖質の含量を減少させることは容易で

あるということができる。そうすると、相違点に係るサントリー発

明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべ

きである。

 

今回のサントリーとアサヒビールの一審東京地裁判決では、市場

で既に販売されている商品であって、分解、分析、等を行うことに

よって、その構造、構成、成分割合などを把握できるものが、その

商品が市場で販売された後に行われた特許出願で特許請求されて

いる発明の進歩性を否定する先行技術に採用されました。

 

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