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中小企業の知財戦略=特許出願での保護、営業秘密での保護=

2017年10月17日

会社内で行う発明発掘・発明創作活動、その過程での特許調査につい
てこれまで説明してきました。
今回は、発掘・創作した発明を、特許出願によって保護するか、ある
いは特許出願せず、営業秘密や、先使用権(特許法第79条)などで保
護するか検討・判断する際のポイントについて説明します。

A.特許出願は社会に公表される
特許出願で特許庁へ提出する書類(明細書、特許請求の範囲、必要な
場合の図面)には、特許権の取得を希望する発明の内容を明瞭・明確に
記載すること、記載されている通りに行うことで特許権取得を希望して
いる発明を誰でもが再現できる程度に詳細に説明することが要求され
ます。産業の発達という特許法の目的から要請されるものです。
特許庁は受け付けた特許出願の内容を秘密に保持しますが、出願日か
ら18カ月(1年6月)経過した時点で、それ以前に取り下げられてい
る、等の事情が存在しない限り、特許出願人に関する情報(名称、住所)
などと共に特許出願の内容を社会に公表します。紙ベースでは特許出願
公開公報を発行して誰でも閲覧可能にし、特許出願公開公報発行と同時
に特許出願公開公報の内容が特許庁のJ-Plat Pat にアップされてイン
ターネット上で誰でも閲覧可能になります。

B.営業秘密は社会に公表されない
ノウハウなどの営業秘密は、「秘密として管理されている生産方法、
販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、
公然と知られていないもの」(不正競争防止法2条6項)ですから、そ
もそも、社会に公表されていないことを前提にしています。
また、先使用権(特許法第79条)も、特許権者から「特許権侵害に
該当する」等の権利行使を受けた際に、その特許権についての特許出願
が行われるより前から事業の実施あるいは、事業の実施の準備を行って
いたので、引き続き事業を継続できるとするものなので、社会に公表さ
れていないのが一般的です。
そこで、内容がいずれ社会に公表されて同業他社が知ることになるの
を前提とした特許出願で保護を図るか、社会に公表されない営業秘密、
先使用権(特許法第79条)によって保護を図るのか検討することにな
ります。

C.一般的な判断基準(1)
次のような場合には一般的に特許出願を行うべきと思われます。
ア.いずれ同業他社もたどり着くであろうと思われる技術
発明発掘・創作活動、特許調査などを通じて、特許出願を行うに足る
と考えられた技術が、同業他社であっても通常に技術開発を行っておれ
ば、いずれ到達・開発し得る技術であろう、と思われるものである場合。
このような場合には、同業他社が先に開発を行って、先に特許出願し
てしまえば特許権取得されて、自社の実施が不可能になることがあり得
ます。そこで、特許出願して特許での保護を図る方が望ましいことにな
ります。
イ.市場に提供する製品を分解・解析することで把握できる技術
発明発掘・創作活動、特許調査などを通じて、特許出願を行うに足る
と考えられた技術が採用された製品が市場に投入された際、その製品を
分解・解析することで採用されている技術内容を把握できる場合。
このような場合には、開発した商品を市場に投入することで技術内容
が他社の知るところになってしまうわけですからあらかじめ特許出願
して保護を求めることが望ましいことになります。

D.一般的な判断基準(2)
物を製造する方法について特許取得できた場合には、その製造方法を
使用して物を製造する行為だけでなく、その製造方法を用いて製造した
物を販売する行為などにも特許権の効力が及びます。
一方、検査方法のような、いわゆる単純方法と呼ばれる発明の場合に
は、その方法を使用する行為に対して特許権の効力が及ぶだけであって、
物を製造する発明に与えられる上述した効力はありません。
そこで、検査方法のような、いわゆる単純方法についての発明であっ
て、その方法を採用していることや、その方法の内容を同業他社が把握
することは困難であるし、その方法が同業他社によって使用されている
かどうかを調査・把握することも困難である場合には、特許出願を行わ
ずに、営業秘密として保護を図ることが考えられます。

E.総合的な検討・判断
特許取得を希望する発明(技術内容)を誰でもが再現できる程度に詳
細に記載して特許出願を行う必要があるといっても、記載するものは特
許出願の時点で把握していた実施例、実施形態になります。また、発明
は、「技術的思想の創作」という抽象的・概念的なものですから、特許
請求する発明によっておさえることのできる効力範囲は、特許出願の際
に記載する実施例、実施の形態に限られません。
特許権での保護を受ける場合には、国(特許庁)が審査を行って独占
排他権(特許権)が付与され、その内容が国(特許庁)から特許公報で
公示されているので、相手の侵害行為と、それが特許権の効力範囲に属
すること、等を立証するだけで権利侵害行為の排除が可能になります。
一方、社会に公表されていなかった営業秘密などの場合には、相手の
侵害行為などを主張、立証する前に、保護を受け得る営業秘密であるこ
とや、先使用権を有していることを、最終的には裁判所が納得するよう
に、主張・立証する必要が生じます。

「中小企業白書2009」を用いて紹介したように、中小企業におい
て特許権の取得は、ヒット商品の誕生、企業業績の向上、信用力の獲得、
新規顧客の開拓などに関係することが認められています。社内における
発明の発掘・創作活動は、市場やユーザー・顧客のニーズの収集・把握、
同業他社の技術動向の把握を伴うので、これらによって会社の技術力・
開発力を高め、その結果の特許出願によって技術部門・開発部門の意欲
向上を期待できます。
また、同じ発明については一日でも先に特許出願を行っていた者に特
許が与えられるという先願主義(特許法第39条)の下、自社で実施す
る技術について特許出願を行っておけば、その日より後に誰かが行った
特許出願に特許が成立し、自社が実施している技術に対して「特許権侵
害に該当する」等の権利行使を受ける危険が少なくなります。
そこで、特許出願によって保護するか、あるいは特許出願せず、営業
秘密や、先使用権(特許法第79条)で保護するかは、単純に、上述し
た一般的な観点からだけで判断できるものではありません。市場や、同
業他社の動向、発掘・創作した発明の特質などを総合的に考慮した上で
判断することになります。

 

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